Surgical Outcome Research and Innovatiove Collaboration

尺度使用上の注意点

その尺度は何を測定しているのか?

 

尺度の中身をよく見る必要があります。

 

当たり前のことだと思うかもしれませんが、研究者がアンケートの具体的な項目をあまりよく把握していない場合があります。QOLという言葉の流行とは裏腹に、QOLを測定している質問内容を知っている人は非常に少ないのです。

 

癌の臨床試験のアウトカムによく用いられているEORTCーQLQ-C30という質問紙は有名ですが、その中身の質問項目をいくつ知っているでしょうか?その中にあなたの知りたい項目が含まれているでしょうか??

 

しばしば調査票の内容をよく吟味せずに臨床研究を行ってしまうケースがあります。

 

途中で、「あれ?こういう質問ないの?」ということになると協力している医師や患者さんをげんなりさせることになりますね。

 

本当にあなたの知りたいアウトカムが、その調査票で得られるか、かならず自分で確認しましょう。

 

QOL 尺度 妥当性 信頼性

 

あなたの測定したい概念はなんなのか?

 

そのためにはまず、あなたの測定したいものがなんなのかよく考える必要があります。
一言でQOLといっても、その中には色々な要素を含んでいる場合があります。
人によっては栄養状態や睡眠状態をQOLに含めています。

 

使用する尺度を間違えると

 

臨床研究において尺度は検査機器です。

 

胆石を疑った時に、消化器内視鏡検査をしても、診断がつかない可能性が高いですよね。
CT検査でも分からないかもしれません。
超音波検査を第一にすべきではないでしょうか?

 

このように、何を調べたいのか(胆石を第一に疑うのか、胃潰瘍を第一に疑うのか、大動脈瘤を疑うのか)によって検査が違うように、研究者が何を知りたいのかによって、使用尺度を適切に選ぶ必要があるのです。

 

消化器外科医はしばしば術後のQOLということばをかなり広い意味で使用することがありますが、実際にはQOLというよりも特定の症状(たとえば下痢、逆流、ダンピング症状、食事摂取不良、体重減少など)について興味を持っていることがあります。

 

これまで、外科医に限らず何人かの臨床家から「術後のQOLを比較するような臨床研究をしたいのだが・・・」という相談を受けたことがあります。よくよく話を聞いてみると、相談者の興味はQOLというよりは「手術後の症状」や「栄養状態」であったり、「排便の機能について」であることが、だんだんと分かってくることがあります。相談者本人も、話をしているうちに、次第に自分の興味が何か、それを研究の題材にするには、何をアウトカムにすべきか分かってくることがあります。

 

アンケート = QOLではないのです。

患者報告型アウトカム = QOL でもないのです。

 

もし、焦点を当てたいポイントが、たとえば「胃全摘後の食事摂取の状態、食生活の質について」ということであれば、果たしてSF-36質問紙は適切でしょうか?

 

SF36質問紙には残念ながら食事摂取に関する項目は有りません。36もの質問が含まれていますが食事に関しては一つも項目がありません。これでは研究者の知りたいことが分からない、解析結果をみても研究者が結論を出せないということになります。

 

質問紙の中身を見ないと、こんな単純な過ちを犯すことが実際の臨床研究で起こっているのです。

 

この研究の場合には、胃癌や食道癌の術後の食生活のQOLをターゲットとした尺度「EGQ-D」が適切かもしれません。

 

実際に質問票の中身を見て、本当に自分の知りたい結論が出せるか、もういちどよく考えてみる必要があります。

尺度の信頼性・妥当性を調べる前に!!!

尺度の信頼性や妥当性よりも大事なものがある

 

PROをアウトカムにする場合、大きな落とし穴があります。

 

さすがに最近は、自作のアンケート調査などを何の検証もせずに使用するといったことは少なくなりました。
その質問票には、妥当性があるんですか?といったやり取りも見られるようになりました。信頼性・妥当性の評価の仕方は、多くの教科書が詳細に解説していることですので、ここでは差し控えます。

 

しかし外科医にとっては数式や因子分析の解釈を考えるよりも前に、やらねばならないことがあります。

 

「測定概念を明確にする」ことです。

 

日本人は、この概念、概念化ということを非常に苦手とする人種ではないかと思うことがあります。そういう教育を受けていないからです。
欧米人は自分の考えをまとめて発表する能力に長けていて日本人よりもプレゼンテーションが上手な人が多いですが、プレゼンの良しあしは内容の正否ではなく、わかりやすい概念(コンセプトで)で括られているかということにかかっています。コンセプトが難解だったり複雑だったりすると理解に時間がかかり、内容の正否を論じることが出来なくなります。(まれにそれを狙っているのではないかと疑うようなやり方をする人もいますが・・・。それは政治家としては重要な能力かもしれませんが、科学・医学的知見を論ずるには不適切な態度ではないかと思います。)

 

自分の意見を発表する機会が少ない日本人は、子供の時から自分の考えを概念化するトレーニングが不足しており、私も何度も失敗を繰り返してきました。

 

尺度が測定する概念を明確にした

 

私と共同研究者の方々が開発した尺度は非常に明確な概念を呈示しています。

 

測定概念を明確にするまでの研究は非常に長く、つらい道のりでした。その一部は上部消化管手術の評価尺度の項で少し解説いたしましたのでご覧になっていただきたいのですが、それだけで1年くらいかけて試行錯誤を繰り返しました。

 

概念を明確にすれば自ずと研究計画は出来てくる

 

まずクイズです。ちょっとだけ考えてみて下さい。

 

たとえば、胃癌の手術によってどのくらいQOLが損なわれるのか知りたい

 

たとえば、直腸癌手術後、ストマ患者はどのくらいQOLが損なわれているのか知りたい

 

この臨床疑問に対して、どのような臨床研究を計画しますか?

 

QOL 尺度 妥当性 信頼性

 

 

回答例

 

手順1 手術前にQOL調査をする。
手順2 手術後(例えば1年後など)にもう一度QOL調査
手順3 連続症例で100人ほどデータを収集
手順4 前後のQOLスコアを比較

 

 

もしこういう計画を考えついたとしたら、あなたの脳は「ハードアウトカム」研究の呪縛に冒されてしまっているかもしれません。

 

何が間違っているのか?

 

もしあなたが一般の外科医で、この研究の問題点がすぐにお分かりでしたら、もうこれ以上読まずに、ぜひご連絡をください(笑)!そういう方と一緒に臨床研究を計画してみたいので。

 

この答えは臨床疫学的な周辺知識が必要になってきますので、すべてをこのページに書くことが出来ません(というか、数行でうまく説明できる自信がありません)。少しずつ各章にソフトアウトカム研究のエッセンスを書いていきますので、一緒にお考えいただきながらこのサイトを眺めていただければと思います。


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