術後患者の食事の質を評価する尺度
食事の質を評価する
症状を評価する心理尺度「ES4」に続いて、
食生活の質を評価する尺度「EGQ-D」を開発しました。
Diet-Targeted Quality of Life for EsophagoGastric cancer = EGQ-D です。(略語の順番が違うのはご容赦ください。)
聞き飽きたころかと思いますが、何度も申し上げますと、こちらも構成概念を固めるまでに、非常に長い時間がかかりました。
苦労話はまたの機会にするとして、尺度の中身を簡単にご紹介します。
小さくて見にくいかもしれませんが、これが尺度全体です。全部で8項目の質問しかありません。
ES4が23項目あったので、両方とっても31項目とお手頃です。
この尺度は「食生活の質」にのみ特化しており、それ以外のことは評価できませんので、もし全体的なQOLを調査したい場合にはSF-36などの使用をお勧めいたします。
ただし、SF-36は逆に食事の項目がありませんのでご注意ください。
この尺度は1因子性
この尺度は、ES4と同様に、因子妥当性を評価していますが、内容的に見ても明らかなとおり、単一の因子で構成されていると考えられました。そこで、あらたに、Item Response Theory (項目反応理論) を用いて、各項目の特性を吟味し、程度の軽い患者から程度の強い患者まで幅広く使えるように工夫をしました。
項目反応理論は非常に面白い考え方であり、ぜひスペースを取ってじっくり説明したいところなのですが、現在仕事のキャパシティーに余裕が無いため、時間が出来次第UPしていきたいと思います。
なぜ食生活に絞ったのか
実のところ、尺度の開発当初の予定としては、「上部消化管の術後患者のQOL」を評価する尺度を開発しようと試みました。開発段階においては、QOL項目として、33項目もの質問を用意し、実際に回答してもらいました。
しかし、実際にアンケートを取って、妥当性を検証している際に、やはり構成概念が「しっくりこない」ことに悩みました。
紆余曲折の末最終的に至った思いが、
食道や胃の術後の患者さんは確かにQOLが損なわれているだろう。しかし、術後のQOLを測定するのであれば、包括的尺度で十分である。包括的尺度ならば、疾患特異的ではないため健常な人との比較も可能である。術後患者のQOL低下を調べるのであれば、そのような症例対照研究をデザインした方が適切なのではないだろうか。
それよりも、上部消化管術後に特異的なQOL低下とは、そもそもなんであるか?そのほとんどは術後の消化器症状などの後遺症が原因で、それによって食事や排泄が思い通りに行かないことが、日常生活の支障の大部分を占めているのではないだろうか?(もちろん、体力の低下、痩せによる外見への不満、創部の外見的不満などもありますよ。もちろん考えました。でも大半は食事と排泄のことではないでしょうか?)
だとすれば、術後患者のQOL尺度には食事や排泄の質といった因子構造が必要なはずである。しかし既存のQOL尺度にはそういう概念は含まれていないではないか(SF36しかり、EORTC、FACTしかり)。それこそが、既存研究の盲点であり、本研究の意義はそこを補てんすることにあるのではないか。
考えてみれば、昔から「快便・快食」が健康の証とも考えられていた。そういう快便・快食を評価するスケールを作るというのは実に面白く新しい視点である。
しかし、快便に関しては下部消化管手術の患者も評価対象にしたほうが良いだろうし、すでにいくつかの既存尺度が有りそうである。快便スケールに関しては別研究として新たに対象者を広げて行った方が、より内容的妥当性の高いものが出来るだろう。
上記思考を経て、最終的に食事の質にターゲットを絞った尺度を開発する方向に決定しました。まとめてしまえば、5分で読める無いようなのですが、自分の頭でここまでたどり着くには、実に1年ほど、かかりましたよ。はい。
そのような経験を経て、研究の概念を深く掘り下げていくという作業が少しずつ身についてきたように思います。ただこの文章を読むだけでは、おそらく身に付かないと思いますので、ご自身の研究テーマを可能な限り深く掘り下げていく、そういう作業をぜひ体験していただきたいと思います。
自分一人で考え掘り下げていく、それを共同研究者に説明して同意が得られるか反応を見る、その繰り返し作業が重要だと思っています。